職人引退3ヶ月後、同じ手直しが3回続いた原因
築32年・鉄部含む外壁改修、工期21日。ベテラン職人が抜けた3か月後、同じ手直しが3回続きました。原因は技術の消失ではなく、記録の消失でした。
1. 現場データ:鉄骨階段付き4階建て共同住宅の改修
2. 引退から3か月後、同じ場所で同じ手直しが起きた
3. 手直し後、会社が変えた3つのこと
4. 退職と同時に会社ごと止まらないために
現場データ:鉄骨階段付き4階建て共同住宅の改修
舞台は築32年、鉄骨外階段付きの4階建て共同住宅です。延床面積は約420平米、工期21日、人工は延べ52人工。使用したのは下塗りシーラー18缶、中塗り上塗りシリコン系32缶でした。
現場を仕切っていたのは64歳の棟梁格の職人です。会社では「あの人に聞けば大体解決する」という存在で、若手2名がついて技術を見て覚える体制でした。
この現場では鉄部のケレン(さび落とし)の程度と、外階段の踏板部分だけ希釈率を変える判断が必要でした。棟梁はいつも「ここはちょっと濃いめでいい」と口頭で伝えるだけで、数値を書き残したことは一度もありませんでした。
引退から3か月後、同じ場所で同じ手直しが起きた
棟梁は工期終了の2か月後に引退しました。次にこの物件の外階段だけ塗り替える追加工事が入ったのは、それから3か月後です。
担当したのは若手だった28歳の職人でした。前回の希釈率も踏板の下地処理の手順も、記憶と当時のメモ書き程度しか残っていませんでした。結果、通常の希釈率で吹付したところ、踏板の摩耗部分だけ3分艶が合わず、色番自体は日塗工の指定通りでも「艶がまだら」というクレームが元請から入りました。
手直しにかかったのは足場は既設のため無しで、再塗装だけで人工3人工、缶数は中塗り上塗り合わせて4缶。金額にすれば小さくても、元請の信頼を削る出来事でした。
なぜ「見て覚えさせる」は失敗するのか
棟梁の判断は本人の中では一貫していました。ただしそれは「この現場のこの部分は」という条件付きの判断で、言語化されていなければ次の担当者には引き継がれません。
見て覚える教育は、見ている間しか機能しないのです。棟梁が現場を離れた瞬間、判断の根拠ごと消えます。
手直し後、会社が変えた3つのこと
この会社は手直しの後、同じ失敗を繰り返さないために体制を見直しました。
- 現場ごとに希釈率・色番・下地処理の判断を必ず数字と写真で残す運用に変更
- 職人本人ではなく現場監督が記録を確認する二重チェックを追加
- 退職予定者には引退の半年前から判断基準の聞き取りを開始
特に3つ目は効果が大きく、次の退職者が出た際は聞き取りに40時間ほどかけたことで、似た手直しは起きていません。
ここで浮かび上がるのは、技術の継承は「教える時間」より「記録する仕組み」の有無で決まるという点です。
退職と同時に会社ごと止まらないために
職人の高齢化は個々の現場の問題にとどまりません。塗装工事業では2026年に入ってからの倒産が前年同期より増えており、職人不足や資材高騰が中小・零細事業者の経営を圧迫しています。後継者不在のまま技術者が抜けると、現場品質だけでなく会社の存続にも直結します。
実際、後継者問題の解決策として中小企業と大手の統合が進む動きも出ています。中小企業庁では事業承継やM&Aの相談窓口や専門家派遣を用意しており、地域の商工会議所が窓口です。人材育成の面では、厚生労働省の人材確保等支援助成金が採用や職場環境改善に使える場合があります。自社だけで抱え込む前に、こうした制度の存在は知っておいて損はありません。
私たちイーテクノスも塗装会社を経営する中で、ベテランが抜けた瞬間に現場の判断基準が消える怖さを何度も経験しました。だからこそ開発したのが、職人の判断や希釈率、色番の癖を現場ごとに記録として残せるAngaです。
記録を「誰かの頭の中」から「会社の資産」に変える。そのための道具として、今の体制に足りない部分だけ補う形で使えます。
よくある質問
Q. 職人の高齢化で技術継承に失敗する会社の共通点は何ですか
共通するのは判断基準を口頭でしか伝えていない点です。希釈率や下地処理の程度など、ベテランの経験則が数値化・記録化されないまま引退すると、同じ場所で同じ手直しが起きやすくなります。
Q. 退職前にどれくらいの期間をかけて聞き取りをすればよいですか
事例では退職半年前から着手し、判断基準の聞き取りに約40時間かけています。現場数や本人の口数にもよりますが、直前ではなく半年単位で余裕を持つ会社の方が引き継ぎの精度は高くなります。
Q. 事業承継の相談は誰にすればいいですか
中小企業庁が設置する相談窓口や専門家派遣制度が利用できます。窓口は地域の商工会議所が担っており、M&Aや後継者問題のマッチング支援も行っています。まずは地元の商工会議所に確認するのが近道です。