148戸で価格転嫁失敗、契約書に根拠なし
築28年マンション、外壁塗装148戸、工期42日。値上げ交渉に負けた原因は、契約書に価格転嫁の根拠を書かなかったことでした。改正建設業法対応の落とし穴を1現場で追います。
1. シリコン18缶が予定より4缶足りなくなった日
2. 値上げ交渉で「根拠がない」と突き返された朝礼
3. 契約書を書き直してから起きた変化
4. 契約書だけでは防げない部分もある
シリコン18缶が予定より4缶足りなくなった日
埼玉県内、築28年の分譲マンション改修工事。延床面積は約4,200平米、外壁塗装と鉄部塗装を含む148戸規模の現場でした。工期42日、人工は延べ260人工の見込みで契約しています。
発注していたのはクリーンマイルドシリコンを18缶。ところが下地の劣化が想定より進んでおり、下地処理(表面を整えて塗料の密着を良くする工程)に手間がかかり、希釈率を調整しながら塗り重ねた結果、4缶が急遽追加になりました。
この4缶を仕入れた時点で、すでに塗料メーカーの値上げが2回目に入っていました。契約時の見積単価から1缶あたり800円ほど上がっていて、18缶分の元の見積では吸収できない差額が出ています。
現場監督は「次の見積で反映すればいい」と判断し、この工事では追加請求をしませんでした。よくある判断です。ですが、この現場が終わった2か月後、まったく別の工事で管理組合との価格交渉が難航することになります。
値上げ交渉で「根拠がない」と突き返された朝礼
次の現場は同じ管理会社が窓口の別マンションでした。資材高騰分を今度こそ反映しようと、前回より単価を1缶900円上乗せした見積を提出しています。
ところが管理会社の担当者から返ってきたのは「前回の契約書には価格変動の記載がなかったのに、なぜ今回だけ上乗せするのか」という指摘でした。
2025年12月に施行された改正建設業法では、請負代金の変更方法を契約書に明確化することが求められています。天候や下地状況といった塗装特有のリスクも、契約段階で明記する義務が新設されました。
前回の契約書には資材価格の変動条項も、リスク情報の記載もありません。つまり「次の見積で反映する」という口約束は、契約書という証拠がなければ交渉のテーブルにすら乗らないということです。
結局この交渉は、上乗せ分の半分しか通りませんでした。人件費上昇分と合わせると、この現場だけで数十万円規模の逆ざやが発生しています。
契約書を書き直してから起きた変化
この一件のあと、現場監督と社長は契約書のひな形を見直しました。
追加した3つの条項
- 資材価格が○%変動した場合の単価改定ルール
- 下地劣化など着工後に判明するリスクの取り扱い
- 工期変更時の請負代金の再協議条項
次の現場、築19年の戸建て10棟をまとめた外壁塗装案件では、この新しい契約書を使いました。工期は1棟あたり5日、缶数は1棟平均で下塗り2缶・上塗り3缶の計5缶です。
工事の途中で下塗り材が値上がりしましたが、契約書に改定ルールが書いてあったため、元請への追加請求はメールでの通知1本で完了しています。以前なら口頭交渉に1週間はかかっていたところです。
改正建設業法は罰則を恐れて対応するものではなく、値上げ交渉のときに自社を守る盾になるという実感が、この現場で初めて持てました。
契約書だけでは防げない部分もある
契約書を整えても、資材高騰そのものは止まりません。2026年に入ってからは塗装工事業の倒産件数が前年より増えている状況も報告されていて、職人不足と資材高騰、原油・ナフサ供給の不安が中小・零細事業者を圧迫し続けています。
後継者がいない会社ではM&Aや事業承継で経営基盤を強化する動きも進んでいます。中小企業庁や各自治体には事業承継の相談窓口や補助金制度があり、地域の商工会議所が窓口になっているケースが多いので、契約書対応と並行して確認しておく価値はあります。
私たちイーテクノスも塗装会社を経営していて、この「次回に先送り」で痛い目を見た経験があります。契約書の条項整備と合わせて、日々の発注・原価管理を都度記録に残す仕組みがないと、価格転嫁の根拠自体が曖昧になりがちです。
Angaは現場ごとの発注・出面・原価をLINEで簡単に記録できるツールとして、そうした記録づくりの手間を減らす目的で作りました。契約書という盾と、日々の記録という証拠、両方があって初めて交渉の土台ができます。
次でいいやって流した見積が、半年後に自分の首を絞めてきました
よくある質問
Q. 改正建設業法対応で契約書はどこを直せばいいですか
最低限、資材価格変動時の単価改定ルール、着工後に判明するリスクの取り扱い、工期変更時の代金再協議条項の3点は追記が必要です。特に塗装業は下地劣化など着工前に見えないリスクが多いため、リスク情報提供義務への対応が重要になります。
Q. 資材高騰分はどのタイミングで請求すればいいですか
契約書に価格変動条項がない場合、着工後の追加請求は交渉が難航しやすいです。理想は見積提示時点で改定ルールを明記し、価格が実際に動いた時点で速やかに書面かメールで通知することです。先送りは根拠を失う原因になります。
Q. 改正建設業法は零細の塗装店にも関係ありますか
関係します。労働者の賃金水準確保や長時間労働の是正、契約書記載事項の厳格化は事業規模に関わらず対象です。人件費上昇への価格転嫁の仕組みを整えていないと、経営を圧迫する要因になりやすい状況です。